建物の負圧と高気密住宅のつながり

高気密住宅を建てる時に知っておいた方がいいことについて

「高気密住宅」というのは、家を建てる時に材料のつなぎ目から生まれる小さなすき間を可能な限り無くすことでピッチリ建てる家のこと。

「すき間風がなくなり家が寒くなくなる」というイメージが強いようですがそれは誤り。今の新築住宅はビュンビュンにすき間風が入ってくるようなこと自体がありません。
正しい高気密住宅の目的はこちら。「換気扇を回したときに隙間があると、その隙間から外気を吸い込んでしまう。結果家じゅうの空気をきちんと排気できなくなる。高気密住宅ではそれがちゃんと計算通りになる。」

これが高気密住宅の一番の目的です。

高断熱・高気密の家については過去にも触れているのでこちらからどうぞ。

今日は、そんな高気密住宅で建てる時に気を付けなければいけない負圧という知識についてお話して参りましょう。

高気密住宅で起こる知らなかった!ポイント『負圧』

『負圧』ってなに

負圧というのは、建物の屋内の空気を屋外に排出するとき、排出する空気量よりも屋外から屋内にいれる空気が少ない時に起こる現象。
空気は目には見えないが10の空気を換気扇から吐き出そうとする時、同じ10の空気を給気口から屋内に入れることになります。が、これが吐き出そうとする空気の量を20、30吐き出すために強く換気扇を回した場合、屋外の空気を吸い込む給気口から10までしか給気できないため屋内の気圧が低くなるわけです。
(空っぽのパックジュースを吸おうとすると「給気」する場所がないためパックが凹む。それと同じ現象が家で起こっている。)
これを負圧といいます。

『負圧』になる原因

高気密住宅にすることで建物が負圧になるわけではありません。負圧になりやすくなる。ということを覚えておいてください。
建物の負圧という現象は上記のとおり、吐き出す空気(排気)の量が、吸い込む空気(給気)の容量オーバーすることで起こります。今の新築住宅は24時間換気システムという換気扇が回り続けるようになっている仕組みで建てられており、常に一定量の空気を排気し続けています。そして、その一定量と同量の空気を常に給気し続けるように計算されて家が建ちます。
つまり、それ以上に排気しようとすると建物が負圧になります。それは大きく2パターン。
1つがキッチンのレンジフードを回した時。もう1つが最近では採用率がすっかり高くなった設備、乾太くんを使用している時。この2つのタイミングです。そんな設備の排気量について少し表で見て見ましょう。

排気量比較

一般的な一戸建ての体積(㎥)30坪程度約250㎥
建築基準法で定められている換気量0.5回/h以上
レンジフード(弱運転)約200㎥/h
乾太くん約240㎥/h

家中の空気が250㎥とすると、1時間ちょっとで家中の空気を吐き出す勢いを持つレンジフードや乾太くんの排気量の多さがお分かりいただけるのではないでしょうか。緩く静かに換気をする24時間換気がずっと換気しているにも関わらず、それをはるかに上回る勢いで空気を排気しようとしている。だから家の負圧が発生するわけです。

高気密住宅と負圧の因果関係

「排気の空気量の方が多いときに負圧になる」という話なため、この負圧という問題は高気密住宅じゃなくても起こります。
しかし、一般的な住宅の場合は排気の空気量が多いと建物にある小さなすき間から多少空気が入ってきます。給気口以外から。それにより、負圧という現象が多少起こりにくくなるわけです。それが高気密住宅、つまり隙間がほとんどない家の場合この「多少入ってくる空気」が無くなるため、より負圧になりやすくなるという仕組みです。

『負圧』になったら何が問題なの

①家の不具合の原因

『負圧になる』ということは、給気口から無理矢理空気を取り込もうとしている状態になるということ。そして、取り込みたくても取り込めていない状態です。それにより、建物の木材のつなぎ目などから無理矢理空気を吸い込もうとしてしまう。結果雨水を取り込んで雨漏りを起こしたり、結露を起こしてしまう原因になりえます。

②きちんとした排気ができなくなるため、家じゅうが綺麗な空気に入れ替わらない

24時間換気システムは、空気の出入り口があらかじめ計算されています。しかし、計算外の強い排気をする出口があると、本来排気する場所から空気が吐き出されないという現象が起こります。負圧が強くなりすぎるとそもそもレンジフードからも排気されないというような場合も。(焼肉屋や焼き鳥屋で店内が煙でいっぱいになってしまったりすることがあるのはこれが原因)

③窓やドアの開け閉めと、指ハサミなどのトラブル

玄関ドアを開ける時にかなりの重さを感じ、開けた時室内に強い風がビュウと吹き込んだ経験はありませんか。
これは外気を取り込みたくて室内が負圧になっている時に起こる現象です。自宅で窓を閉めてレンジフードを回し玄関ドアを開けようとすると体験できます。ドアが重たくなりストレスが溜まることもありますが、注意しなければならないのは別。吹き込む強風です。玄関のドアを開けた際に吹き込んだ風は突風となり、リビングドアなどが勢いよく閉まってしまうようなことが起こります。ケガの心配はもちろんのこと、家が傷みますのでできればその事態は避けたいところです。

④人体への影響はないとされてる

「気圧が低いと偏頭痛が起こる」そんな方はこの話を聞いてこうした人体への影響を心配する人もいますが、この負圧による問題は今のところ研究上人体への悪影響はないと言われています。そのためその点はどうかご安心を。
海の底や山の上などこの「気圧差」は減圧症や高山病などの原因となるため、どうしても身体への影響を心配してしまうところ。ですが、ここで起こる負圧はそれほどの圧力がかかるようなものではありません。

家の負圧対策について

▶レンジフードは適切なタイミングでのみ使う

晩御飯の匂いがリビングに残るのがイヤだから。そうした理由でレンジフードを強く回し続けているご家庭もあります。中には24時間換気の一環として弱で常に回し続ける習慣のあるご家庭なんかもあったりします。
先のお話のとおり、家の空気は1時間に1回家じゅうの半分の空気が入れ替わる計算。つまり、レンジフードは一時的に強い排気を行うために使うものということです。適切なタイミングで使用するのが大切。そして、レンジフードの排気をしっかりさせたい場合はどこかの窓を小さく開ける。そうすることで、負圧は起こらず、レンジフードは100%の性能を発揮してくれるようになります。

▶差圧給気口(パスカルダンパー)の設置を検討する

室内が負圧になると自動的に給気してくれる差圧給気口というものもあります。これは優れもの。
参考URL
これを設置する場合のデメリットは3点。
①熱交換型の第一種換気システムを採用している場合。この差圧給気口が作動すると外気がそのまま入ってくる。
②設置費用がかかる(5万円程度が目安でしょうか)
③給気口が一つ増えるため掃除箇所が増える。

▶同時給排式のレンジフードを設置する

レンジフードの排気量が相当量であることは先のお話の通り。そこで、その排気量に合わせて同時に給気することで負圧を低減する仕組みの同時給気・排気式のレンジフードというものがあります。

高気密の家の目的

C値の低い高気密な家を建てる目的。それは24時間換気システムによる空気の入れ替えを計算通り行えるようにするため。しかし、家が密閉されることで起こる別の注意点についてはうっかり失念しがち。今日お話しした負圧以外にも「室内の音が反響しやすくなる」なども挙げられます。
皆様には、高性能にしたい目的を今一度検討してみて頂きたいなと思うところです。